西村崇史(トロンボーン奏者)

 ニューオーリンズジャズを知っているだろうか?その音楽は電気楽器を使わず、打楽器はスネアドラムとバスドラムに分かれる。基本エレキベースではなくスーザホンという低音金管楽器が入る。19世紀末、US南部ルイジアナ州の都市・ニューオリンズでは、友人が亡くなったときなど、音楽隊が街中をパレードをし、死者の魂を解放する習慣があったという。

 この地で生まれたジャズ源流の思想や歴史、文脈に強く惹かれた男がトロンボニスト西村崇史だ。

西村崇史
トロンボーン奏者。高校1年の時にNew Orleans Jazzに出会う。
聴く人にポジティブな影響を与える音楽を追求し、
2008年からBaked Potato Bandを結成する。
2012にBaked Potato Bandを解散し、新たにニューオーリンズスタイルのブラスバンドを結成。演奏する場所を選ばず、あらゆるシーンにて自身の音楽を演奏する。


 文化ごと解釈した上での重み


 バスケ部に入るつもりだった高専1年生は、その楽器のU字型の管がついているような「変な形」が目に留り、試しに吹かせてもらったことからキャリアをスタート。青春時代の通過儀礼にもれなく、多くの高校生と同様に彼も仲間たちとバンド結成を試みる。しかし周りにベースがおらず、代わりにチューバを入れ活動を始めた。


 そんな中、関西発の日本を代表する、BLACK BOTTOM BRASS BANDや、本場のレジェンドDirty Dozen Brass Bandを知り完全に「やられちゃった」ことが彼と「ニューオーリンズ」の出会いとなる。そして、かの地のプレイヤー全てに西村は「とにかく楽しそう、というオーラが溢れている」と感じ、その印象は今も変わらぬらしい。

 前述のパレードは派手に行われる。この音楽のルーツには「とにかく楽しもう」というポジティブなメッセージがあり、その奥深さに西村は魅力を感じている。文化ごと解釈した上での重み。その文化に敬意を持っている人間の音楽は軽薄にはならない。


 「自分の、バンドの音を聴いた人が、マイナスと向き合ってくれたら。それがポジティブを与えることだと思う」


 人間味が大きな要素となる


トランペットなど他の楽器に“浮気”はしてみても、必ず戻ってきたという。

 「人の声に近い楽器。人間味に溢れている」とトロンボーンの魅力を語る。

 「どういう気持ちで吹いているかが表れやすい楽器だと思う」とも。

 ゆえに、演奏する人間自体にも興味を持った。トランぺッターではあるが、彼が1番好きなプレイヤー、ルイ・アームストロングは人を引き寄せる魅力に溢れていた。彼のやりたい音楽では、人間味が大きな要素となる。

  音楽は時代とともに移ろう。ニューオーリンズジャズという古き良き器の広いジャンルの上に、ロックなど現代のフレーズを乗せても「はまる」ということを試みたのが、彼が08年から5年間オーガナイズしたBaked Potato Brass Bandだった。

 そして今、その過程を経て、次はニューオーリンズを普段から聴きまくっているような8人を集め新たなバンドを結成。間もなく活動を開始するという。今回のBATONTOUCH vol.2では「やりたいけど発表する場がなくて溜まっている奴ら」と称する彼の後輩たちとアクト。出来る喜びに溢れたポジティブな音になるのは間違いない。

 音楽の力、ぶち上がる勢い


 いずれ彼は「ここに行けばニューオリンズが聴ける」をいう場を東京に作りたいと話す。それはシーンを作るということだ。並大抵のことではないが、もし完遂者がいるなら、それはきっとその文化にどっぷりかぶれちゃってるような人間だけだ。

 「音楽の力、ぶち上がる勢いを伝えたい。それは言葉では伝わらないから」

 アディクター


 何かしらのポジティブを—。ともするとキャッチーなこの言葉は、例えばアガらないアッパーチューンを発表したアーティストにありがちな挨拶ではなく、ある音楽の文脈を愛す喜びの中にあり、ガチな向き合い方をしているようなアディクターのものであるべきだ。少なくとも、彼にはその資格がある。

 

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