ai kuwabara trio project(ジャズトリオ)

 「ピアノの生の弦の音にはすごい説得力がある」と桑原あいが語る言葉には説得力がある。音を切ったり貼ったり、何でも出来てしまう時代だからこそ、加工を一切施さないことにこだわり、彼女の頭の中で鳴っている音楽を正確に体現する。

 「波が止まってはいけない、音楽は。グルーヴの動きが音を切り貼りすることでどんどん途切れていく。曲全てで1つ。芯があってこそのものだから」

 力強くも繊細なai kuwabara trio projectの演奏を聴いてそのグラデーションを感じたら、この言葉の意味が理解できる。

ai kuwabara trio project
1991年生まれ。幼少よりエレクトーンと作曲を学ぶ。ジュニアエレクトーンコンクール全日本大会金賞受賞。雑誌“AERA”に天才エレクトーン少女として掲載。2004、5年小椋佳主催ミュージカル「アルゴ」エレクトーン奏者。中学生後半よりピアノに転向。高校卒業後、2010年自身のfirst live、second liveを行い、企画・演出も手掛け好評を得る。現在は自身のライヴを中心に都内各地で様々な演奏活動を行っている。
http://www.aikuwabaratrio.com


 音楽をやらなきゃ、ってなったら終わり


 彼女が作る楽曲をピアノトリオという形態で表現するためのこのプロジェクトは、ピアノ桑原あい、ベース森田悠介、ドラム(今井義頼、神田リョウ、鈴木“Soopy”智久)からなる。バンドではないのでドラムは可変で曲調に合わせ桑原がキャスティングする。「基本的にこのプロジェクトは彼女の楽曲ありき」と森田が話すように、共同プロデュースとしてプロジェクトに携わる彼もそのルールに則っている。

 「音楽をやらなきゃ、ってなったら終わり。バンドの音楽を守るためにこういうプレイをしなさいっていうのは必要ない。自分で居場所を見つけて下さいっていう」

と桑原が話す言葉からは、あくまで楽曲を一番に考え、ジャンルじゃなくかっこいい音楽を—との思いが汲み取れる。


 エネルギーが爆発している


 2010年11月から活動し、今年5月には待望のファーストアルバム「from here to there」をドロップ。日本ジャズ界から注目を集める20歳の桑原と、ジャズやロックの他、映画サントラやゲーム音楽にも精通し、アーティストのライブやレコーディングなどに幅広く参加するキャリアを持つ森田が中心となりai kuwabara trio projectは動く。

 かっこいいと思うツボ、音楽の目指している場所が近いという2人の邂逅は、森田の音大の卒業制作であるCDを桑原が聴いたことから。

「このベースの人に会ってみたい」

と、彼女が洗足学園高校音楽科ジャズピアノ専攻を卒業して間もない10年4月に企画・演出・作曲全てを担当した初ライブに彼を招待した。そこで森田も桑原の演奏を聴き

 「エネルギーが爆発している」

とその才能に気づく。以後、組んでライブを重ね同プロジェクトへと道は連なる。


 キャリアの全ての集約


 桑原は中学3年時に「自分には音楽しかない」と腹を決め、幼少期から輝かしい経歴を重ねてきたエレクトーンからピアノに転向した。それは“YAMAHA界”に限られたところから、文字通り世界に出ることを視野にした決断だった。

 一方森田は、自身で作曲やアレンジなどもこなしソロアルバムも出すなど本来はバイプレイヤーだが、このプロジェクトでは全てのインスピレーションを楽器にぶつけようとベーシストの立ち位置をあえて保つ。

 結果「今までの節操のない」キャリアの全てを集約し、フィードバックできているという。アルバムからは、ジャズの方法論の上でクラシックやヒップホップなど現行の音楽の要素が反映された音が伝わってくる。




 奇跡の重なりが曲になることがある


 自由度が全く違うエレクトーンとピアノの操作の壮絶な差異を乗り越えた桑原でも、即興演奏という要素については抵抗がなかった。2人が語るには、一度即興演奏でセッションすれば、技量はもちろん、演者の性格までわかるという。5秒でスキルがわかるというから恐ろしい。ここで言う即興とは、ある程度の決まりを作曲しておいて、その中で自由に遊ぶということ。その魅力を2人は

「ある程度の方法論はあっても、それを超越する瞬間がある。うまく絡み合ったときに自分たちも知らない領域で奇跡の重なりが曲になることがある」と話す。

 逃すのはもったいない


 とにかくライブに来て聴いてくれ、と2人は言う。生音の熱量や即興の輝きは、どれだけ文明が進歩したってその場を逃したらどこにも保存されない。逃すのはもったいない。彼らが"いい顔”で演奏しているのはどんな門外漢だって必ず条件反射してしまう。そのグルーブに首だけじゃなく体全体で揺れて「頷いて」しまったら、あなたはもうこのプロジェクトに説得されている。 



 

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